「未経験の予算管理」を組織の武器に変える――成長企業が“未来を設計できる”ようになるまで

「経験のない予算管理」を、組織の力に変える
―― 成長企業がはじめて経営管理をつくるときに起きていること
企業が成長していく過程では、ある時点から「これまでのやり方では回らない」という感覚が生まれます。売上は伸びている。人も増えている。拠点も広がっている。しかし、どこで利益が出ていて、どこに無理があるのか。次の一手をどう打つべきか。数字が十分に語ってくれない。
私が関わったある成長企業も、まさにその局面にありました。規模拡大を続ける一方で、経営管理は過去実績の月次確認が中心。将来を見通した予算は存在せず、「今月どうだったか」は分かっても、「来期をどうつくるか」は議論の土台がありませんでした。
経営トップには明確な危機感がありました。外部環境は厳しさを増し、利益構造の変化も見込まれる。だからこそ、先を読んだ意思決定が必要になる。しかし、組織として予算を立てた経験がなく、売上予算の作り方すら誰も慣れていない。社員だけでなく、経営陣も含めて「未経験」だったのです。
見えていなかった本質的な課題
このとき私が「根が深い」と感じたのは、仕組みがないこと以上に、「先を見て行動する習慣がない」ことでした。
予算管理は、単なる数字の作業ではありません。未来を仮置きし、それに基づいて行動を選ぶという思考習慣そのものです。過去実績の積み上げだけで経営してきた組織にとって、未来を自ら設計するという発想は大きな転換になります。
多くの場合、ここで「完璧な制度」を目指してしまいがちです。しかし、未経験の組織に高度な管理手法を一気に導入しても、理解も納得も追いつきません。形式だけが残り、やがて形骸化します。
この企業に必要だったのは、高度な管理理論ではなく、「一度やり切る経験」でした。まずは60点でもいいから、自分たちの力で予算を立て、回し、振り返る。その循環を体験すること。そこにこそ、本質的な変化の種があると考えました。
伴走しながら、段階を設計する
最初に着手したのは、予算管理の意義を共有する対話でした。なぜ今これが必要なのか。予算とは何かを縛るためのものではなく、何を明らかにするためのものなのか。
その上で、無理のないステップを設計しました。
•予算編成の枠組みをシンプルに構造化する
•実際の数値設定を、現場と一緒に行う
•予実を確認する会議体を設計する
•会議では私自身が進行役となり、議論の型を体験してもらう
「伴走型」と言われることがありますが、実際にはもっと地道です。時には一緒に電卓を叩き、売上仮説の置き方を考え、費用の内訳を細かく分解する。抽象的な助言ではなく、現場で同じ数字を見る。
重要なのは、無理をさせないことでした。最初から100点を求めない。精緻さよりも「最後までやり切る」ことを優先する。
1年目は、とにかく予算編成と予実管理を完遂することを目標にしました。完璧でなくていい。ただし、途中で投げない。その代わり、翌年に改善すればいいという前提を共有しました。
数字と空気の変化
1年目、組織ははじめて自らの手で予算を作り、年間を通して予実管理をやり切りました。
それだけでも大きな前進でしたが、副次的な効果も現れました。過剰な人員配置の見直しや、慣習的に続いていた支出の整理が進み、利益体質は着実に改善しました。派手な改革ではありませんが、数字は確実に変化しました。
しかし、私がより大きな成果だと感じたのは「会話の変化」です。
2年目には制度の質を高め、3年目には意思決定に直結する指標の活用を強化しました。すると、経営トップだけでなく、役員や部門責任者までが、予算を前提に自然に議論するようになりました。
「感覚」ではなく、「仮説と数字」で話す。
「結果を言い訳する」のではなく、「先に打ち手を考える」。
予算管理が特別な作業ではなく、日常の経営言語になった瞬間でした。
確信していること
この経験を通じて、私が確信していることがあります。
経営管理が未成熟な組織においては、最初から高い完成度を目指さないほうがよい、ということです。大きな理想を掲げすぎると、達成までに時間がかかり、途中で疲弊します。
まずはコンパクトな目標を設定し、一周させる。そしてPDCAを回しながら質を高めていく。これがもっとも堅実で、再現性のある方法です。
そしてもう一つ。業務改革は、制度の優劣ではなく「人の納得」で決まります。どれだけ正しい仕組みでも、腹落ちしていなければ続きません。だからこそ、私は常に「成功体験を得る最短ルートは何か」という視点で設計します。
小さくてもいい。自分たちの力でやり切った、という感覚。それが次の挑戦を支えます。
同じ課題を抱える経営者の方へ
もし今、
•事業は伸びているが、管理が追いついていない
•予算管理の必要性は感じているが、どう始めればよいか分からない
•組織に経験がなく、導入に不安がある
そう感じておられるなら、まずは「一度やってみる設計」を考えてみてください。
60点、70点でも構いません。完璧を目指す前に、やり切ること。その経験をもとに、改善を重ねればよいのです。
私は、経営管理や予算管理がまだ定着していない企業に対して、伴走しながら仕組みをつくる支援を行っています。制度を入れることが目的ではありません。未来を自ら設計し、意思決定に自信を持てる状態をつくること。それが最終的なゴールです。
成長の次の段階に進むための「見える化」を、焦らず、しかし着実に。
その一歩をご一緒できればと思います。
